Not So Long Ago.
それほど遠くない昔

過去を覚えられない人は過去を繰り返す運命にある。――ジョージ・サンタヤーナ

写真展『20世紀を振り返って』は20世紀の歴史を伝える300枚の写真を展示しています。入り口でガイドさんが写真を紹介します。

Part1

皆さん、『20世紀を振り返って』にようこそ。20世紀は科学と通信の分野で大きな進歩があった時代でした。人々の生活は以前より豊かに快適になりました。人々は大きな自由と平等を達成しました。幸せな生活を送るという夢に近づいているように思われました。

しかし、20世紀はまた悲惨な戦争の時代でもありました。何百万人もの人が命を失いました。ここに展示してある写真は、皆さん方や私のような普通の人が20世紀で経験したことを教えてくれることでしょう。 ご覧になりながら、ご自分に質問をしてみてください――「自分自身の家族や友達の写真だったら、どんな風に感じるでしょうか?」 ショックを与える写真もあるでしょうし、中には悲しくさせたり、怒りを感じさせたりする写真もあるかもしれません。 しかし、将来に向けてのメッセージも与えてくれるでしょう。展示をご覧になる前に、私たちにとって特に大切な2枚の写真をお見せできればと思っています。

Part2

この1枚から始めましょう。この写真は、1945年、長崎でアメリカ人フォトジャーナリストのジョー・オダネルさんによって撮られました。オダネルさんはこの写真について日本人のインタビュアーに次のように語られました。

「10歳くらいの男の子が歩いて通り過ぎるのを見ました。背中に赤ん坊をおんぶしていました。当時、日本で、子供たちが背中に弟や妹を背負って遊んでいる姿はよく見かけられました。 しかし、この男の子は明らかに違っていました。深刻な理由でこの場所にやって来たんだとわかりました。男の子はクツを履いていませんでした。顔の表情は硬かった。赤ん坊はぐっすり眠っているかのように、小さな頭は後ろに傾いていました」

「男の子は5~10分程そこに立っていました。白いマスクをした男性たちが歩いてやって来て、赤ん坊を縛っていたひもを静かにほどき始めました。赤ん坊がすでに死んでいるとわかったのはその時でした。 男性たちは赤ん坊の両手両足を持って、火の上に置きました」

「男の子は、炎を見ながら、動かないでその場で直立していました。下唇をとても強くかんでいて、血がにじんでいました。炎は太陽が沈むように下火になりました。男の子は向きを変え、静かに歩いて立ち去りました」


Part3

では次にこちらの写真を見てみましょう。以前ご覧になった方もきっといらっしゃることでしょう。1972年、ベトナム戦争の時に撮影されました。この写真では小さな女の子キム・フックさんが、服は焼けてしまい、苦しみながら道路を走ってきています。 次の証言はキムさんが以前、この経験について語られたものです。

「何も聞こえませんでしたが、周りに火が見えていました。そして、火のせいで服が突然、燃えてなくなってしまいました。そして、体が火におおわれ、特に片腕に火がついているのが分かりました。でも、両足はやけどしていませんでした。泣きながら、火から走って逃げていました。走って、走って、走り続けました。」

「気がつくと病院にいました。14か月で17回手術を受けて、全身の半分以上のやけどを直しました。そして、あの忌まわしい経験が人生を大きく変えました。どうすれば人を助けられるのかを考えさせられました。」

「両親が新聞の写真を初めて見せてくれた時、それが自分だって信じられませんでした。とても悲惨だったからです。皆さんにこの写真を見ていただきたいのです。ご覧になれば、戦争とは何なのかお分かりになるでしょうから。戦争は子供たちには悲惨そのものです。 私の顔にすべてが読み取れます。表情から学び取っていただきたいのです。」

Part4

このように写真は多くのことを語り掛けてくれます。過去に何が起こったのかを伝えてくれます。 見たくないと思うかもしれないものを、時には見せつけてきます。

20世紀は戦争の世紀でした。2つの世界大戦と冷戦、それに世界中でもっと小さな戦争がたくさんありました。ある日本のジャーナリストは20世紀を「36000日の苦しみの日々」とさえ呼びました。ここに展示してある写真に何らかの希望のしるしを見つけるのはひょっとすると難しいかもしれません。 しかし、努力すれば希望の印は見つけられます。

キム・フックさんの話がいい例です。とてもたくさんの人からの温かい支援を受けて、キムさんは今、カナダで幸せな家庭生活を楽しんでいらっしゃいます。「お母さんに、お母さんの祖国に何が起こったのかを息子に教えなければいけません。そして、2度と再び戦争があってはいけないということを教えなければいけません。」と語られています。

2度と再び戦争があってはいけません。これこそが、この展覧会の写真から今日、皆さんに感じ取っていただきたいメッセージです。こうしたことすべてが、それほど遠くない昔に起こった出来事だという考えを皆さんにお伝えできればと存じます。